Chapter.1 あっさり予約

 待ち合わせは駅に12時で、ボクが先に到着。Nさんが12時03分着の電車でやってきた。駅から店までは徒歩で数分の距離で、ほどなくして見えてきた。黒地にピンクの文字の看板。如何にも 「風俗でございます」 という外観が近付くにつれ、微妙に逃げたい衝動に駆られた。「やっぱやめましょうか」なんていう台詞が、口を衝いて出そうになる。なんとなく、足が地に付かない。熱にうなされているような感覚に囚われる。しかし、歩は進み、やがてボクの体は店の中に入っていった。
 くの字の階段を1フロア分降りると、フロントについた。
「お客様はフリーで宜しいですか?12時45分から1人、12時50分から1人空きますが」
 山寺宏一辻よしなりアナを足して2で割ったような風体のフロントが言った。Nさんが、「じゃあそれでお願いします」と答えた。びっくりするほどあっさり、予約が完了した。
「前金になります……」
 すっとお金を差し出す。格安店なので、1万ナンボである。気分的には、このお金を払って「じゃ」と家路についてもいいような気分だった。この後に起きることを考えれば、そのまま帰っちゃった方が幸せだったかもしれないが、それはまぁ結果論というものであろう。
 時に12時10分過ぎ。フロントは待合室に促そうとするが、Nさんが「すいません、飯食いに行きますんで」と告げた。ボクとNさんは一度、店を離れた。